休業中日記・3

<ひねもすは現在休業中です。営業再開が決まりましたら、またこちらでお知らせ致します。>

 

 

なんだかあっという間に九月になってしまいました。

昨日までの暑さはどこへやら。急にぐっと気温も下がって、「今年の夏は幻だったのではあるまいか・・」と思わせるような変わりよう。

 

燗番は意外にも(よく意外と言われるので一応言いましたが本人は別に意外だと思っておりません笑)、夏が大好きなので

毎年八月三十一日は不思議な感慨にふけってしまいます。

特に今年はどこにも出かけられず、夏らしいことは何もできなかったなあ・・・

 

ということで今日は、夏を諦めきれない方への、きらめくような夏の一句のご紹介です!

 

 

それが写真の一句。

「酒十駄ゆりもて行くや夏こだち」

与謝蕪村の作です。

(与謝蕪村と言えば、ひねもすの店名の由来になった「春の海ひねもすのたりのたりかな」の作者です。江戸中期の俳人。)

 

書は、河合静山先生の作です。

 

「酒十駄」とは、酒の樽を負った馬十頭の意味だそうです。

(馬一頭に三斗五升の樽を二つ負わせて「一駄」という単位だそう。)

 

季語は「夏こだち」です。

青々と葉の茂った木立を、酒樽を積んだ馬が十頭歩いてゆく。

蕪村は俳人であり画家でもあったのですが、いかにも画家らしい「絵のような」景色である、と評する文章も。

 

夏木立という季語は、サンサンと照り付ける真夏の太陽の存在を前提とした、その葉がつくる「影」の快い涼やかさを表している言葉なんですね。

遮るものなく、馬がギラギラと太陽に照らされている光景だったら、また別の印象になっていたのでは。

木漏れ日をきらりと受けて、ゆったりと進む馬たち。

その背の酒が揺れる度に、酒に樽の香りがしみこんでいく・・・・・

 

「なんだか長々言っていましたが、結局またお酒なんですね!」と指摘されてしまいそう!笑

これぞまさに「花より団子」でしょうか、情趣が欲求を上回るという、、笑

いやいや、情趣があるからこそお酒が輝くわけです。呑兵衛にとっては「花あってこその団子」。

 

と、また脱線、笑

話をもとに戻すと、馬の数の「十頭」というのが効いているよな~と個人的には(というか呑兵衛的には)思うわけです。

十頭いることで、反復的なイメージができる。そしてその反復は時間性を作る。

その時間性が、ゆったりとしたリズムでお酒が少しずつ美味しく熟成してゆくような感覚を読み手に想起させるような気がするのです。

 

 

最近読んでいた「居酒屋の誕生」(飯野亮一著)という本がとても面白かったのですが、その中に江戸で呑まれていたお酒とその輸送方法についての記述がありました。

 

江戸で多く吞まれていたのは、伊丹や池田など上方で造られていたいわゆる「下り酒」。

江戸時代のかなり早い段階から下り酒の海上輸送は始まっており(菱垣廻船・樽廻船って、そういえば日本史の授業で習ったなあ)

関東の地酒もあったのですが、より価値が高くおいしいとされていたのは下り酒だったようです。

 

その要因は、水の性質や造りの技術などが勿論大きかったのでしょうが

海上輸送中に生じる味の変化もあったようです。

 

以下、本文で紹介されている「万金産業袋」の一文より抜粋。

 

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(伊丹・池田の酒は)「作りあげた時は、酒の気はなはだ辛く、鼻をはじき、何とやらん苦みの有やうなれども、遥かの海路を経て江戸に下れば、(中略)味ひ格別也。これ四斗樽の内にて、浪にゆられ、塩風にもまれたるゆへ酒の性やはらぎ、味ひ異になる事也」

 

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できたばかりのお酒はアルコール感も強く苦味もあるけれど

(これについては、現代の新酒を思い起こしてみるとわかりやすいですよね)

輸送されて波に揺られているうちに酒質がやわらかくなり、格別な味わいとなる、ということ。

 

新酒が輸送中に適度に熟成されて(樽の香りもうつる)おいしくなった!ということですよね。

(塩風もやはり関係あるのでしょうか、、このあたりは詳しい方に聞いてみたい)

 

このブログを読んでくださってる方は、「そりゃあ旨いだろうなあ。」と思ってくれると思うのですが、

「日本酒は冷蔵庫で保管してすぐに飲まなければいけないもの」と思っている方には、もしかしてよくわからない価値なのでしょうか。

お店をオープンして「常温で置いて味を開かせるんですよ。」と何度話したことか・・・

今度から、「江戸時代の下り酒の手法ですよ」と言おうかな笑

(ますますよくわからないですね笑)

 

輸送によってお酒が美味しくなるため、上方ではわざわざ一回江戸にお酒を出し、それを再び戻すということも行っていたそうです。

それを「富士見酒」と呼んでいた、、なんて、江戸時代のボキャブラリーは本当におしゃれですね。

 

 

この話を踏まえて、蕪村の句へ戻ってみると、、、

馬の上で揺れるお酒、なんとおいしそうなことか!となりませんか。笑

(馬で運んでいるということはすでに江戸にきたお酒だと思うので何ヶ月という熟成にはならないわけですが、「揺れによっておいしくなる」というイメージが増幅します)

 

そして「夏木立」。

ゆったりと熟成されてゆく穏やかなリズム感を守り、身体に心地よい涼しさが如何にも日本酒を美味しく感じさせてくれそうではないですか。

(これがギラギラの太陽だったら、現代人は冷たいビールを呑みたくなっちゃいます笑)

 

書は、酒樽がゆらゆらと揺れるリズムを表すように平仮名で揺れているようにも見えます。

「ゆりもてゆくや」のや行の気持ち良さ。

(「ゆ」と「や」の丸く空いた空間が木漏れ日に見えてきました笑)

「しずかに醸成されてゆく夏の日」という感じで、すごくお酒が呑みたくなります。笑

 

選句をして下さり、書いてくださった静山先生は燗酒を愛する書家さんです。

季節ごとにこうして句を書いて頂いているのですが、お店が休みになってしまったため、今回はブログでご紹介させて頂きました!

お店のトイレに飾っていますので、是非チェックしてみてください。

そろそろ秋の句に替えないといけないですね。

 

 

休業中はひまなので、俳句の本も色々と読んでいます。

活字読むの苦手なんだよな、という人は(そんな人、この長文ブログを読んでいる人にはいないと思いますが笑)、俳句を読んでみるのはおすすめです。

本を買わずとも、ネットでちょこっと調べるだけで、句とその鑑賞(解説や解釈)が出てきて便利なので、それを読んで色々と思いめぐらすのもたのしい時間ですよ。特にお酒を呑んでいるときにおすすめです笑

 

今日も読んで頂きありがとうございました!

それでは、また~

のたりのたり